*このブログではPraha Inc.の社員の様子、仕事ネタなどをお伝えします。
初めまして、Praha Inc.の社長兼エンジニア、松原です。
世のみなさまを悩ませる人事評価。
この記事では、そんな人事評価に対するPraha Inc.の考え方を紹介します。
※ロードオブザリングの序章くらい長いです。
Praha人事制度の特徴1:人事評価をしない
Prahaでは人事評価をしません。
半期ごとに目標を決めて「君はAね」「君はSね」と評価する事はありません。
Praha人事制度の特徴2:階級は2つだけ
全員が「一人前」か「修行中」のいずれかに該当し、課長、部長、リーダーみたいなポジションはありません。「一人前」なら給料は全員一律なので、役員も社員も同じ給料です(例外的に1期目は社長の給料だけ0円にしてますが)
Praha人事制度の特徴3:一人前になるのに必要なのは「在籍期間」
修行中の人が一人前になるにはどうすればよいのか?一定の期間、例えば1年をPrahaのエンジニアとして過ごした人は、必ず一人前になります。細かなチェックリストを設けて「この人はスキルレベルが達したから一人前だ」みたいな人事評価はありません。
2018年創業のITスタートアップが年功序列に近い制度を導入しているのは不思議に思われるかもしれません。そこでここから先は、なぜPrahaがこのような人事制度になったのか経緯を解説したいと思います。
定期的に達成度を振り返る方法
一般的な企業で最も多く採用されているのが「一定期間ごとに目標設定して、達成度を評価する制度」だと思いますが、コレにはいくつも問題が潜んでいます。
・目標設定に膨大な時間がかかる
・目標達成度の評価に膨大な時間がかかる
・事前に目標設定しなかった行動が評価されない
・達成度を評価しにくい職種の場合、評価の納得感が得にくい
・短期的に評価可能な目標が設定されやすく、中長期的な取り組みが評価されにくい
・自分を評価する人の顔を見て働くようになる
・本人の能力と無関係な要素に成果が影響される事が多い
・実力よりアピールの巧さが評価される
・評価されにくい仕事を誰もやりたがらない
総括すると「えらく時間がかかる割に漏れが多くて納得感がない」制度です。この制度を取り入れた3つの上場企業、10人程度の上司の元で働いてきましたが、どの上司も人事評価に非常に多くの時間を割かれているのを見て、Prahaが目指すモノづくりが好きな人が、モノづくりに集中できる環境からは程遠い評価制度だと感じていました。
「人が人を評価する」手法の亜種として以下のような制度がありますが、やはりそれぞれ無視できない問題が潜んでいます。
評価者を複数人に増やす
「360度評価」「全員でお互いを評価する」といった制度が当てはまります。一人が評価の全てを担うよりは評価に対する納得感が得られるのでしょうが、人事評価にかかる時間が爆発的に増えていくので、やはりモノづくりに集中できる環境とは言えません。
また別の副作用として、会社のカルチャーが育っていくと今度はカルチャーにそぐわない人が評価されにくくなり集団思考が強化されます。例えばスピード最優先のカルチャーが根付いた会社では「スピードを多少落としてでも品質を改善する」ような仕事に挑んだメンバーが評価されません。
市場に評価を委ねる
「自分と似たスキルセットを持った人の転職市場における年収を指標とする」といった制度が当てはまります。人事評価をアウトソーシング出来るので、確かに人事評価にかかる時間は短縮できます。
しかし市場が常に正しいとは限りません。オランダのチューリップや日本の不動産が体を張って証明してくれたように、特定のリソースが市場に過剰評価される事は多々あります。
また市場価格はあくまで平均であって、平均に対する被評価者の位置付けを測るものではありません。例えば努力を怠った未熟なエンジニアが「俺と同じ年代のエンジニアはだいたい800万円もらってるから、俺も800万円ほしい」と主張しても、正当性がないですよね。被評価者が平均より上なのか下なのか評価する必要があるため、結局は人を評価しているのと変わりません。
より精密な評価をアウトソーシングするため「転職エージェントに半年に一回行って評価されてこい」みたいなルールを作ったとしても、評価にはノイズが混入します。まず転職エージェントは転職者の年収がそのまま利益になるので、高い年収を提示するバイアスがかかります。ノルマ未達なら年収を下げてでも決めたいし、手数料割合の高いA社に優先的に紹介する事もあるでしょう(面談社数を増やす事で緩和されるかもしれませんが)
更に転職エージェントとの面談や企業面接での評価は「面接という限定的な場でのコミュニケーション能力」が優先されやすいので、ごく一部の能力が不自然に重み付けされた評価になります。何年も一緒に働いたメンバーからは評価の低いメンバーが、たった数回面談した転職エージェントに高く評価されたからと昇給したら納得できるでしょうか。
限定的な条件下の、ある意味で歪んだ評価をそのまま自社の評価に反映するのは些か乱暴だと思うわけです。
年功序列
上記のような理由から「人が人を評価する」制度の限界を感じて他の方法を模索し始めました。評価をしない制度の代表といえば年功序列ですが、純粋な年功序列を導入すると、何もしていない年長者が高給を貪る姿が若手の意欲を削ぐでしょう。
しかし特定の状況下では、今でも年功序列は有効な制度になり得ると考えています。
ある「時期」は年功序列が有効
突然ですが、皆さんは自動車の運転技術を一通り身に着けるのに何時間かかりましたか?AT車の技能教習が最短31時間なので、だいたいの人は40時間に収まるのではないでしょうか。
では運転経験ゼロから自動車の運転を学び始めて、40時間後に生じる技量差はどの程度でしょうか?卒業試験でドリフト走行をキメるような技術を持った卒業生は少ないはずです。では20年後に運転技術を比較した場合はどうでしょうか?差は大きく開いているはずです。
言ってしまえば当然なのですが「未経験〜初学者」など習熟期間が短い時期は、経験と成果の誤差が少ないのです。となると、年功序列は「未経験から数ヶ月〜数年」あたりまでは誤差の少ない評価方法かもしれません。
上記の観点から「年功序列が適切な時期がある」可能性に着目しました。
評価と年功序列のハイブリッド
では「人が人を評価する」と「年功序列」の良いとこ取りをすると、どうなるのか?ここからPrahaの人事制度を説明します。
まず「年功序列が適切な時期」を考慮し、年功序列を用いるのは比較的キャリアが浅いメンバーに限定します。Prahaでは「一人前」と「修行中」という2つのクラスがあると申し上げましたが、修行中から一人前に昇格する条件に年功序列を採用しています。
「修行中」クラスでPrahaに入社した方は、一定期間を経ると必ず「一人前」になり、昇給します。では「一定期間」をどのように決めているのか?ここで「人が人を評価する」制度を用います。
Prahaでは面接2~3回と週1日以上の業務委託期間を1ヶ月経て採用が決まります。その間に接点があったメンバーを選抜して「このメンバーは何ヶ月で一人前になるか?」を一斉にコールします。接点量の多さで重みを調整した平均が「一人前になるまでの期間」です。プロジェクトマネジメントで用いられる「プランニングポーカー」を「修行中」クラスの人事評価に限定して活用しているわけです。
こうする事で
・人事評価の時間を大幅に短縮
(評価するのは修行期間を決める時だけ)
・中長期的な取り組みを阻害しない
(そもそも評価が無いため)
・評価される側の顔色を伺う必要はない
(期間が過ぎれば必ず一人前になり、その後は評価がない)
・育成のインセンティブが生まれる
(育成が間に合わないと、実力が伴わない「一人前」が増えてしまうため)
といった具合に
「一般企業が人事評価にかける大量の時間を削減したうえで、部分的に評価を行いつつ、大半の時間はモノづくりに専念できる環境」が期待できます。
評価の時間を減らす=妥協、ではない
一人前になって以降、人事評価は基本的にありません。こう言うと稀に勘違いされるのですが、我々は「えらく時間がかかる割には不正確な人事評価」に時間を取られたくないだけで、人事評価そのものをおろそかにしているわけではありません。
面接期間の1ヶ月と、場合によっては1年近く及ぶ修行期間を経て一人前になるわけですから、言い換えれば1年以上面接をしているようなものです。それだけの時間をかけて心底一緒に働きたいと全員が思った人だけを採用しているわけですから、エンジニアやデザイナーとして、それ以前に一人の人間として常にベストを尽くしてくれると信頼しています。
そのため給料も「一人前」なら全員横並びです。給料は会社の売上に比例します。売上が伸びれば昇給するし、売上が下がれば減給です。
また売上を人数で割るという事は、人を採用すれば必ず一時的に自分の給料が下がります。必然的に「この人は将来的に会社に対して自分以上に貢献できるのか?」という観点で考えなければいけません。本当はどの会社もそうなんですけどね。横並び一律だと余計に意識しますよね。なので採用は非常にシビアに行われます。
もちろん、この制度にも懸念点は多々あります。
・セルフマネジメントに大きく依存する
・評価されない事による気の緩み
・一人前の中での実力差に対する不公平感
・組織的な行動統制を取りにくい
今の段階では観測されていませんが、こういった問題が肥大化した時に備えた追加制度は常に検討しています。それ以前に突出した才能に出会った時、大きな事業転換を迎えた時、圧倒的な成果が生まれた時、制度も合わせて形を変えるかもしれません。
人事制度に完成はありません。会社の形にあわせて常に流動的であるべきです。しかし根底にある「モノづくりが好きな人がモノづくりに集中できる環境」はしばらく変わりませんし、今のPrahaにとっては、これが適当な設計だと考えています。
普段はカルボナーラ型ペペロンチーノとか本棚のリファクタリングの話しか書いていないので、社内で話した内容を言語化する意味も込めて、たまには真面目な話を書いてみました。
そんなPrahaの考え方に興味を持ったそこのアナタ!
ぜひ会社に遊びに来てね〜!